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Feb 9, 2014

同人百迷走 第7話「同人誌の在庫は悪である」


現在のAppleのCEO(最高経営責任者)はティムクックです。
彼はジョブズからスカウトされた時、こんな考えで製品を管理していました。


「在庫は悪である」



時は2009年の埼玉県。
まさにオレは同人誌「祭」の在庫に苦しんでました。

初の同人参加で1000部刷るも実売数50部、、

発行1000部-お礼の献本100部-実売50部で残りは850部

この850部の在庫を売らなければいけません。
そうでなければメンバーの努力に対してあまりに不甲斐ないのです。
悔しさにもだえる日々が続きますが、冷静さを取り戻しリベンジを誓います。

いくつかの戦略アイデアを思いつきます。
オレの取った戦略は「攻め」でした。
それはつまり引き続きコストをかけて本を制作するということです。

今記事から3回くらいは実際に自分がやった在庫販売の方法を書いていきます。



商品を増やして「同時買い」を狙う


これはデザフェスで学んだことですが、一つのお店においてグッズ点数はある程度の種類があった方が色んな戦術が可能であり、相対的な売り上げは良いのです。

ポストカードがいい例ですが、気に入った作家のものであればファンは複数の種類をまとめて買います。
1種類を1000枚作るよりも10種類を100枚作る方が同じ枚数でもイベントあたりの総売り上げは後者の方が多いでしょう。
もちろん印刷ロットの関係もあるので沢山刷った方が単価は下がります。
この辺は結構難しいです。

ポストカードを20種類用意し、ばら売りで単価100円、20枚セット価格1500円、、
などといったお得感を煽る商売も可能になります。

つまり、自分のサークルで新刊を増やしてどんどんイベントに参加していけば
既刊の「祭」は売れるだろうという戦略が立てられるわけです。

次なる課題はさらに魅力的な本の制作でした。

漫画島へ進出


「祭」はイラスト本でしたが次回作は漫画にしようと考えました。

コミティアに出たことがある人はわかるかと思いますが、
漫画島(※)は独自の雰囲気があります。

※漫画島(まんがじま、まんがとう):漫画系サークルが集まっているエリア

漫画島ではもっさいサブカル男子、もといおっさんが小汚い線で書かれているシュールな創作漫画を死んだ魚のような目で売っているのです。
製本もコピー紙を自分でホッチキスで留めるなど手作りのものが多く、オレにとってはデザフェス時代を思い出しました。

以前の記事でコミティアに関しては売れなかったことにフォーカスしたのですが、
イベント自体は楽しかったのです。
なにせ自分のスペースが暇でしたのでshirakabaと交代で他スペースを見たりしました。

我々が心をときめかせたのがそんな暗雲立ちこめる漫画島だったのです。

サブカル同人に感染したオレは次回のサークル出展先を
イラスト島から漫画島へ変更します。

世の売れ線とは逆の方向に走ってます。

とはいえコミティアでのサブカル漫画は一定の需要があります。

たくさん売る事は難しいでしょうが100部程度ならそこまで難しくありません。

ジャンルに歴史があるのでファンの目が肥えています。
作家に知名度がなくても作品に魅力があれば戦えるのです。

むしろニッチであればニッチであるほど注目されるでしょう。

自転車操業スタート


こうして最初の漫画企画「3悪3(さんわるさん)」は
2009年の2月に制作がスタートします。
前作のイラスト本から得た反省から5つほどルールを決めました。

1.少部数の発行…追加の在庫発生はさすがに死ぬ
2.価格は500円…可能な限り安く
3.参加人数を少なく…ブランド性を主張しやすい
4.ページ数を増やす…漫画はボリューム命だと思う
5.年に4回発行…毎回出さないと前回分在庫の負債が解消できない

4と5は結構しんどいです。

特に最初の制作の時はまだカイカイキキでアルバイト中でしたから、
その中で漫画18P程仕上げるのは当時としてはなかなか骨が折れました。

さらに、毎度60P以上の新刊というのはグループ制作といえど厳しい。
作業量でいうともちろん商業作家の方が多いのですが、
同人の場合は精神的な問題で、油断するとすぐ飽きてしまいます。

百化はわりと自転車操業で、制作を続けないとサークルを維持できませんでした。

「3悪3」のメンバーは前回「祭」から引き続き、
虎硬(オレ)、shirakaba、nekoとなります。

64P/A5/モノクロ/500円の本を初版で100部発行できました。


印刷は共信印刷を使います。
(当時と比べるとサイト見やすくなってます、同人という文言すらなかった記憶)

ここでの印刷が100部オンデマンドでおよそ30,000円でした。
献本除いた90部完売で45,000円。
印刷所から自宅への郵送代が2,000円程度、
そこから印刷代を引くと純利益が13,000円になります。

もちろん交通費等々もかかりますが、デザフェス時代に比べればマシです。

なによりも漫画同人を楽しみたいことが大きかったのです。


結果、売上は「3悪3」50部、「祭」50部となりました。

なんと既刊である「祭」が初参加の時と同じ部数が売れたのです!

「既刊は売りにくい」

それはイベントに参加してない方はわからないかもしれません。
同人誌において「新刊」とは謎の神聖さがあり、読んでなかったとしても既刊となるとなんとなく魅力が減ります。
もちろん話題になった作品は別ですが、基本的に同人誌は鮮度が命なのです。

「祭」が売れた理由は他にもありました。

webプロモーション開始


「プロモーション」というと大げさに聞こえるかもしれませんが、要は宣伝ですね。
大きくは動画と通販サイトの制作でした。

動画は大学の友人であるピロシキ君にお願いしました。


アップロード直後から再生数1万を超え、それなりに話題になりました。
ロゴの制作やキャラクターデザインはオレが他はほとんど任せました。

通販に関しては当時は委託店を介すのが嫌で自家通販で行いました。
嫌な理由はアレルギー反応に近く、自分が頑張って作ったモノを他人に任せたくない
というのが大きかったです。
自分でやれば手数料もとられません。

とはいえゼロから通販サイトを立ち上げるのは時間がかかります。
そこでチャレマというサイトを使いました。
これは自分でサークルページを作り、顧客管理から発送まで可能にするものです。
つまり、委託店ではなくSNSに近いです。


チャレマの窓口で欲しい人の情報を受け取り、返信し、
銀行の振り込みを確認してから本を郵送しました。

買う人の振り込み代や手間がかなり多いのでポストカードに
メッセージをつけて同封したりしました。
2009年とは思えないアナログっぷりですね。

そんな凄まじく地味な作業を半年ほどこなしていきます。

これは今だから言えますが委託はお店に任せた方が良いです。
発送や連絡などのやりとりは想像よりも遙かに大変です。

今でも創作系同人イベントで人と話すと「店に委託するのはちょっと…」という方は多いのですが、経験からいうと損です。
その時間を使うなら我々サークル側は制作に専念すべきだと思います。

委託については後の記事で詳しく書いていきたいと思います。

耐える時期


そんな地味な作業を半年ほど繰り返していくサークル百化です。
初めに決めたのルール通り、コミティアに皆勤で参加し、必ず新刊を持っていきます。

2009年5月の「3悪3」に続き8月のコミティア89では
「裏技」が72ページでリリースされます。
こちらは初版分100部の内、会場で60部ほど売れました。
前作の「3悪3」はこのイベントで完売するので追加で200部増刷します。
そこそこ売れることがわかったので在庫を増やしても商品数を維持します。
200部の印刷代はだいたい6万円ほどかかりますが、漫画本は安価で比較的安定で売れるので大きなダメージにはなりません。


ちなみに「祭」の在庫は一度のイベントで30〜40部ほどなくなります。
1年にコミティアが4回あるので合計でだいたい140部程度です。

このペースでも良いのですが労力の割に見返りが少ない、
ていうか初期投資が21万円なのでそれも回収できてません。

ちなみに漫画企画はみんなの頑張りもあって200部程度売れる企画に成長します。
視野が狭かったなりに色んな研究をして少しでも完成度を上げようと、
それぞれが努力を続けていきました。

しかしそもそも最初のイラスト本の負債が15万円程度あるので、
漫画と在庫販売で一度に黒字を作れる額がせいぜい5、6万円ほど。
合計だと半年経っても赤字です、、

デザフェスと同じじゃねーか!

しかも今後も継続して同じペースで「祭」の在庫が売れるという
見込みがまるでありません。

攻めの姿勢で始めた漫画企画も次第に保守的になってきます。
単一企画では黒字ですが、精神的には苦しい状況です。
相変わらず「祭」の在庫はまだ700部以上あります。

現状を打開するにはさらなる起爆剤が必要になります。

2009年5月、漫画制作の裏で新規に企画を立ち上げます。

次なる一手は散々な赤字を被った「イラスト本」への再チャレンジでした。


書いてる人

虎硬 / Toraco

イラストとデザイン、たまに文章を書きます。

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