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Feb 14, 2019

なぜ絵描きは「女の子」ばかり描くのか

先日の記事が思った以上に反響があり、様々なコメントを頂きました。
多くの方は作家さんを好意的にみていて、記事を作った側として嬉しいです。

一方で気になったのが「女の子ばかり」「どれも同じような絵」という意見。
少し前にキズナアイに対して「萌え絵」という人が一定数いて、えっ、と思いましたが、その時と似たような違和感があります。

以下、主に「女の子のイラスト」がトレンドを獲得していることについて、筆者なりの考えを述べていきます。

女の子をモチーフにしたイラストが多くなる理由

私の記事に関していえば、好みが一番大きい。
そりゃ、主観でまとめているのだから偏るのは当然である。

ただ、表現のトレンドを追う場合、女の子のイラストは評価軸になる。
進化の速度が激しく、市場を反映しているからだ。
わかりやすいのはpixivの総合ランキングで、上位作品はだいたい女の子の絵である。

▲総合デイリーランキング(2019/02/12)

ピクシブの公式発表によるとユーザーは男性58%に対し女性42%。
若干男性が多いものの、大差はない。
むしろアクティブユーザーは女性の方が多いという話も聞く。
ちなみに記事で紹介したクリエイターの半数が(たぶん)女性である。

pixivでは男子に人気ランキングもあるが、こちらはエロ系が顕著になる。
一方で女子に人気ランキングだと漫画ばかりになる。
ネットにおいては女性人気のイラストやモチーフは顕在化しにくい。

▲男子に人気ランキング(2019/02/12)

▲女子に人気ランキング(2019/02/12)

俯瞰的にみる「女性向け」というジャンルは、
絵の表現力よりもシチュエーションや文脈で評価される。
注意したいのは「女性向け」は「全女性ユーザーの好み」ではないことだ。
イラスト表現に対する評価傾向は男女で大きな差は無い。

また、放映中のアニメを見ても女の子キャラがメインの作品は多い。
iOSの人気アプリをみても同様、VTuberも然り。

つまりは女の子のイラストは市場規模が大きいのだ。

もちろんモチーフとしての魅力も大きく、男女問わず人気がある。
それは描く側も同じで、技術的なチャレンジ要素も多い。
そういった複合的な要因から女の子モチーフは非常に活気が溢れている。
ニーズが強いと有能な人材が入って来て競争が激化する。
今のイラスト業界はちゃんとカネを稼げる仕組みがあるからだ。

なぜ「同じような絵」に見えるのか

絵の差異がわからない人は一定数いる。
これは年齢によるものなのか分からない。
私の母親(60代)はLM7のイラストをみて「かっこいい」と驚いてた。

メジャーになることで、それまで興味を持てなかった新しい層にリーチする。
記憶に新しいのはキズナアイ。

彼女はイラストレーターの森倉円とモデラーのTdaの素晴らしい仕事によって生み出されたタレントだが、NHK出演のタイミングで一部から「萌え絵」と批判的にカテゴライズされた。 
自分としてはキズナアイは萌え絵じゃねぇだろ、と思うのだが、認識の断絶を実感した。(別に自分の認識がメジャーだとも思ってない)

ごく単純に知識とインプットの問題である。

イラストは囲碁や空手と同じだ。
ルールがわからないと技術や表現は楽しめないのである。
「黒帯」「日本代表」「1000万部突破」など、
技術に対して権威づけしなければ評価できない人は多い。
私自身、フィギュアスケートの技術はよくわからない。
ただ、競技は勝ち負けがあるので素人目でも強さを理解できる。

イラストは一見してとっつきやすいので、「わかる」気になりやすい。
だから感覚的な好みをそのまま技術力や才能として評価する人が一定数いる。
褒める分には大いに結構だが、訳知り顔で批判する姿勢には抗いたい。

私は学生時代に美術大学でイラストの研究室にいたが、当時50〜60歳くらいだった教授が流行の絵をなにも知らず、一辺倒に「オタク的なダメな絵」と切り伏せていたのをの思い出した。そのせいで学生は教授の好みを描くようになり、もちろん全然売れないので、結果的に絵を描かなくなった。
彼らの成功体験は80年代のバブル期にあり、当時の価値観を引きずっている。

ただ、そんな美術大学の雰囲気も今は大きく変わってきた。
当然である。
価値観の断絶が広がってるし、「オタク的な市場」は若者にとって魅力的だ。
私が仕事でOB訪問すると歓迎されるし、授業をして欲しいとも頼まれる。
学生の前で話すと反響が良いので今ではリピーターになっている。
古典を学ぶのも良いが、近々のトレンドをキャッチアップしていくのは学問としても職業人としては必要なことだ。

特に若いイラストファンはその辺りの感度が鋭い。
彼らは少数ではなく、数百万人はいるメジャーな種族である。
Twitterではイケているイラストはすぐに何万RTもされる。
つまり、今のイラストクラスタはそれなりに規模が大きいのだ。
彼らの多くは10代〜20代なので時代が進むにつれてこの流れは加速するだろう。

イラストがわかるとインターネットは楽しい

毎年、すごい人はどんどん出てくるし、ベテランもそれに負けじと絵を描く。
年齢や地域、人種、言語関係なく、創造性と技術力で面白いことが次々に起きる。
今のエンタメ界隈においてイラストの貢献度は計り知れない。
コンテンツ業界はもちろん、広告業界でも体現している。

本当に今の時代の絵描きは練度、野心、知性、どれも高ポテンシャルだ。
彼らの絵を見られて幸せに思う。 

……

そんなイマドキのイラストがインタビューと共に楽しくわかる本を販売してます。
紙の本は在庫希少になってきたので欲しい方はお早めに。

ネット絵学2018

書いてる人

虎硬 / Toraco

イラストとデザイン、たまに文章を書きます。

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